天瓜粉

近ごろは、赤ちゃんにシッカロールやベビーパウダーを使ってはいけないと、医者は指導しているそうだ。無理もない、これらは、亜鉛華や滑石(タルク)に香料〔それがどんな成分か、表示義務はない〕を加えたものである。

昔は「てんかふん」といった。汗っぽい日など身体中にこれを塗ってしあわせな気持ちになったものだ。「天瓜粉」と書く。黄烏瓜(きからすうり)の根の澱粉(でんぷん)だ。〔アメリカではコーンスターチで作ったものもあった。〕

「天」の「瓜」の「粉」とは、また、なんと優しい有難い文字の姿だろう。

「天瓜粉」を追い出し、シッカロールやベビーパウダーを採用したことと、植物をカタカナで表記するようになったこととのあいだには、無気味な因果関係がある。

植物園へ行って、花や木の名前をぜんぶ漢字に書き換える実習を小学校で始めたい。きっと、鉱物の粉末を赤ちゃんに塗りつけてお金儲けしようなどとは思いもしないで、人にも自然にも優しく、歴史について考えをめぐらすことの好きな子供たちが、うんと増えるにちがいない。

2009.11.30