システィーナ礼拝堂の頭上には、ミケランジェロの30台のときの大仕事「天地創造」の天井画が拡がり、奥には、60台にとりかかった壁画「最後の審判」が立ちはだかっている。そこでは、誰もが、no photo!を繰返し叫ぶ守衛の声を呑み込んで蠢く不気味な雑踏のなかの一人になる。
60歳台のミケランジェロが描く天国は、観れば観るほど、死んでもあんなところに召されたいとは思えない。絵の下方は、まさにダンテの綴る「地獄篇」である。その地獄と同じ地平にわれわれ観光客も立っていることに気づく。
そうなのだ、ここに入る者は、みんな、あの「地獄」の人びとと同じように素っ裸でなければならないのだ。──それは、法王も同じだ。
ミケランジェロは、このシスティーナ礼拝堂に足を踏み入れる者は、法王ですら、地獄の地平にいるのだぞ、と告げる壁画を描いていたのだ。
2011.10.25