風の穏やかな12月1日の昼下がり。山下運河の流れもゆったりと流れる。そこへ真鴨が三羽、大きな澪を作って悠々と泳いで来た。岸壁では十羽を超える鳩が一斉に首を鴨の方に向けて身動きもせず整列している。
いつもなら水の中でせかせか両脚を動かしながら、絶えず水中の魚を探し、見つけるやいっきょに潜水する、見かけよりせわしい鴨なのだが、今日はどうしたのか潜る気配もない。堂々と首を高くしてゆったりと、海口の方へ消えていくのだった。滑稽なのは鳩たちだった。
ほんとうに身じろぎ一つせず首だけ鴨の進む方へ回し、この三羽の通過を十数羽揃って同じ姿勢で見送っているのだった。
これがこの冬、真鴨の姿を見た最初だった。
たくさんの鴨が翌日からつがいでやってきて、せわしく運河を右へ左へ、水の中へ首を突込んだり、賑やかな光景を見せ始めた。
鳩たちはそんな鴨の営みにはもう素知らぬ顔。自分たちは地上の餌を探すのに夢中になっている。
あの三羽はなんだったのだろう。これから大群でこちらへ仲間が参りますよ。どうかよろしくという先遣の仕事をしていたのだろうか。
それに応じて整列して出迎えていた鳩たち――鳥たちのあいだでは、たしかに人間には聞こえない周波数で会話をしていると考えさせられるシーンだった。
(2025.01.02)