二日月のこと

こどもの頃、なにかの用事で朝早く、母に連れられて家を出たことがあった。まだ、太陽が昇らない、しかしうっすらと明るさが広がりかけた濃紺の東の空に、くっきりと輝く細い月があった。「二日月よ」と母が教えてくれた。「生まれたばかりのお月さま。」

もうあれ以上にはなれない細さで、あれ以上に輝くことはほかのだれにもできないまぶしさがそこにあった。そのときから、月のなかでいちばん美しいのは二日月だという思いが住みついてしまった。

2010.9.8