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essay

夏の夜は蠍座と始まる

「さそり座」といえば10月末から11月に生まれた人の誕生星座をまず思い浮かべる。本当は、夏の星座だ。太陽が沈んで夜が始まったころ、南の空低く地平線を這うように登場して、広い夜空を仰ぎながら消えていく。 日本列島から眺めると地を這っていて、いかにも「さそり」らしいが、でも昔の日本列島人はこの星座を「魚釣り星」とか「鯖売り星」とか、「籠担ぎ星」「商人星(あきんどぼし)」などと呼んでいた。「赤星」ともい […]

インスタントラーメン

ボクの10代のころは、インスタント食品が出回りだしたころだった。インスタントジュースとインスタントラーメン。これらは、現在の過剰なアレルギー症候群の重大な原因となっていると思うが、ボクの成長期を支えた食物だったことは、否定できない。チキンラーメンに卵をのっけて熱い湯をそそぐと絶品のラーメンができた。いまでも、店の棚にチキンラーメンをみつけるとつい買って帰りたくなる。 塩ラーメンにトマトを煮込むと、 […]

旧暦と新暦

昨日受け取ったDMの日付に「2010年水無月」とあった。旧暦では、まだ、「皐月(さつき)」である。「水無月」は7月12日まで待たないと来ないのだが、西暦での6月を「水無月」といいかえるとなにか格好よくみえるというのだろうか。こういう態度は、旧暦が持っていた深い歴史とその意味を、むしろ軽卒に掻き消している。6月を水無月と書き換えることは、新漢字を旧漢字に置き換えるのとは違う、歴史認識が必要なのだ。い […]

マネをみた帰り道

「人工」と「自然」という区別をなにげなく使っているが、この区別ほどいいかげんなものはない。「自然」だと思っているものも、そのほとんどは「人工」によって作られているものだ。色、味、匂い……すべてそうだ。 いま、大切なのは、「自然」を取り戻すことではなく、「人工」的なものの色や、味や、匂いをようく見分け、嗅ぎ別ける能力を研ぎすますことではないか。 ──マネの絵を三菱一号館でみながら、そんなことを考えた […]

桜は散って行った

桜は祭りと似ている。 莟がふくらみ咲き始めるまでの日々─祭りの前夜。 満開の花の輝きは祭りの日の高揚。 そして、次の日にはいっせいに花びらを散らせて 祭りの昂ぶりの余韻を引いていく。 今年は、その短い祝祭の日々のあいだに寒気が襲って来て、 花びらは透明な眩しさを曇らせていたのが気になった。 2010.4.19

「抗菌」のいかがわしさ

 文房具にまで「抗菌」とか「除菌」とか記してあるのをみつけて、吃驚した。 そんなに無菌状態になってどうするんだ。「抗菌」だったら清潔で健康な生活が保証できるというのは、人間の身勝手な欲望である。いつも、雑菌となかよく上手につきあっていくことこそ必要だし、それがいちばん「人間的」な生きかただと思うのだが…… 2010.3.10

スイートピーの花束を卓上に

二年間続けた横浜美術館塾を終えた日、みなさんからスイートピーの花束をもらった〔先日、例によって集まりのあとみんなでお茶をのんでいるとき、お好きな花はなんですかと尋かれたのは、そんな企みだったのか〕。 花束をガラス壷に投げ入れて食卓のまんなかに置いただけなのに、白や薄紫や黄色い花が、やわらかい光〔とほのかな匂い〕を部屋に漂わせはじめた。 日頃は、絵を前にして理屈っぽいことばかり考えているが、こんな花 […]

とてもとても寒い日には……

一気に寒い日がやってきた。 こんな日には、バッハのヴァイオリン・ソナタが無性に聴きたくなる。熱い紅茶(やっぱりダージリン)に、蜂蜜をたっぷり入れて、すすりながら。 ソナタNo.1のはじまりの、切ない、啜り泣くようなヴァイオリンの調べに、おだやかなチェンバロの伴奏が居ずまいをただして付き添ってくれれば、この世の寒さを抱きしめながら、そっと生きていこうと、囁いてくれるような気がするではありませんか。 […]

天瓜粉

近ごろは、赤ちゃんにシッカロールやベビーパウダーを使ってはいけないと、医者は指導しているそうだ。無理もない、これらは、亜鉛華や滑石(タルク)に香料〔それがどんな成分か、表示義務はない〕を加えたものである。 昔は「てんかふん」といった。汗っぽい日など身体中にこれを塗ってしあわせな気持ちになったものだ。「天瓜粉」と書く。黄烏瓜(きからすうり)の根の澱粉(でんぷん)だ。〔アメリカではコーンスターチで作っ […]

スプーンの季節

なんだか不順な日の繰返しだった夏が過ぎ、スープのなつかしい季節になった。 スープといえば、スプーンが不可欠で、スプーンでスープをいただくのは「飲む」というのだろうか、「食べる」というのだろうか。 若い頃『斜陽』を読んで、それ以来、もっとも格好よい「スウプ」のいただきかたは、あのかず子のお母さまのいただきかたと納得し、それを会得しようとしてきた。いまだにこれは身につかないないが、ボクの理想のスタイル […]